メンタルヘルス、EAPという言葉が生まれる前から取り組んできた
ダイヤル・サービスの「トータルEAPサービス」
企業による従業員のメンタルヘルスケアは常識になりつつあるが、忘れてはならないのは、制度を導入すること自体が目的ではないということだ。企業の財産である従業員の心の健康をいかに守るのか。また、それによっていかに職場を活性化し、業績向上につなげていくのか――。そういった観点から実効性の高いサービスを提供し、多くの企業から評価を受けているのが、ダイヤル・サービスの「トータルEAPサービス」だ。電話相談サービス、メンタルヘルスケアのパイオニアである同社の今野社長に、その特色や考え方について伺った。
今野 由梨(こんの ゆり)
1969年ダイヤル・サービス株式会社設立。日本で初めて電話をメディアとしたさまざまな情報サービスの提供を開始する。日本初の電話育児相談「赤ちゃん110番」を皮切りに、「24時間健康相談」、「ファミリー・ケア・ダイヤル(現在のEAP)」など、日本初のサービスを次々と展開してきている。設立から一貫して生活者視点に立ち、専門的知識に裏打ちされたサービスを24時間365日展開することを信条としている。また、数多くの政府審議会委員や社団法人日本ニュービジネス協議会連合会副会長、東京商工会議所特別顧問にも就任し、社会に向けて生活者の視点に立った意見や情報を精力的に発信し続けている。
心の悩みに応える「110番」電話相談
---電話相談サービスをわが国で初めて事業化したのは、御社だとお聞きしました。
1971年に「赤ちゃん110番」という子育てをテーマとする電話相談サービスを開始したのが最初です。当時は、核家族化が急速に進み、家や地域から切り離されて一人で子育てをしなくてはならない若いお母さんが増えていました。そこで、このサービスには必ずニーズがあると確信して事業を立ち上げたのです。
当初は、世界でも例のないサービスということで、「長続きするのだろうか」という疑問の声を数多くいただきました。しかし、それでも応援してくださったのが、サービスの利用者である若いお母さんたちです。「素晴らしいサービスだから絶対になくさないでほしい」という声を、たくさんいただきました。その後、徐々に企業のスポンサーもつくようになり、経営も軌道に乗って、電話相談サービスというビジネスを日本に定着させることができました。
続いて、子供の悩みを聞く「こども110番」や、高齢化社会に対応する「熟年110番」など、サービスのラインナップを広げる中で、相談のノウハウをどこよりも多く蓄積していきました。「こども110番」には、累計100万件を超える相談をいただいています。私はいろいろな講演会などに招かれるのですが、「私もこども110番に相談したことがあります。あの時はお世話になりました」と出席者の方がおっしゃってくださることもよくあります。
---メンタルヘルスのサポートサービスにも、かなり早くから取り組まれたそうですね。
創業当初から取り組んできた「赤ちゃん110番」には、単におむつの換え方や離乳食の作り方といったテクニカルな相談ではなく、「育児にはもう疲れてしまった」など、ノイローゼやうつ病のような症状に陥ってしまったお母さんが助けを求めてくる、まさにSOSの電話が多かったのです。当時は、まだメンタルヘルスという言葉すら誰も知らない時代ですが、その頃から私どもは、現在のメンタルヘルスケアの電話相談とほとんど同じ内容の相談に対応していました。
そういった電話には、細心の注意を払いながら、親身になって対応しなくてはなりません。その後、「こども110番」ではいじめの相談があったり、「熟年110番」では虐待や高齢者うつの相談があったりしました。つまり、私どもは40年以上にわたって、常に「心のケア」を意識しながら電話相談サービスを行ってきたわけです。
現在、メンタルヘルスケアのサービスのことを「EAP」と呼ぶことが多いと思いますが、日本で初めてEAPサービスの提案を行ったのも、私どもだと思います。1988年に日本IBM様に、子育て・家事・介護・産休からの復職などの相談、メンタルヘルス、健康相談、医療機関の紹介など幅広いサービスをパッケージの形にしてご提案しました。これも、まだEAPという言葉が一般化する以前のことです。
相談からケア、問題解決までワンストップで対応
---ダイヤル・サービスのEAPの特色を教えてください。
企業向けのメンタルヘルスケアに特化したサービスでは、1997年の「セクハラ防止ホットライン」が最初です。その内容をさらに幅広く充実させ、各企業の状況に応じてカスタマイズしてご利用になれるようにしたものが、2007年よりご提供している「トータルEAPサービス」です。
「メンタルヘルス」「ハラスメント」「身体の健康相談」「暮らしの相談」に関する幅広い電話相談を中心に、コンサルティング、各種研修サービス、全国214ヵ所のカウンセリングルームでの対面相談、さらには担当者同士の懇親会やオープンセミナーなどをご用意しています。相談からケア、問題解決までをワンストップでご提供しています。
「トータルEAPサービス」の第一の特色は、「予防」に大きく力を入れていることです。うつなどメンタルの不調には必ず原因があります。職場の人間関係やハラスメントであったり、リストラや異動であったり、家庭での介護問題や家族問題、あるいは経済問題であったりとさまざまです。そこで、私どもは臨床心理士やシニア産業カウンセラーなどの心理職と弁護士・税理士・医師など家庭や財産の問題、身体の健康問題にも対応できる相談スタッフがチームを組んで、個別の悩みを早期に解決し、メンタルへの影響を最小限に抑えるようにしています。
第二の特色は、私どもの相談スタッフの経験値が非常に高いことです。心の悩み相談はとてもデリケートで、マニュアルですぐに覚えられるようなものではありません。そのため、ベテランスタッフの力が非常に重要です。そこで、私どもは40年以上前の創業当初から、「65歳定年制」を導入しています。40年前といえば55歳定年制の企業が多く、女性にいたっては結婚退職が当たり前で「25歳定年制」などと言われていた時代です。しかし、ダイヤル・サービスでは、もう30年以上にわたって活躍してくれているスタッフがいます。優秀な相談スタッフが長く働いてくれた分、さまざまなノウハウを蓄積してきました。これは、私どものサービスのクオリティーへの高い評価につながっていると思います。
深夜の時間帯や休日にも専門スタッフがきちんと対応
---親身になっての相談が高く評価されていますね。
私どもの電話相談は、もともと「世の中の皆さんの役に立つサービスをつくる」という考えからスタートし、協賛企業にサポンサーになっていただく形で運営してきました。そのため、今もボランティア的な精神が非常に強いのが特色です。真夜中や休日などでも、専門家やベテランの相談スタッフがきちんと対応する体制を整えています。実際、うつの方たちが、気持ちが落ち込んで誰かに相談したくなるのは、夜間や休日であるケースが多いのです。
もちろん、相談の親身な姿勢はどこにも負けないと思っています。以前、目の不自由な方々のための子育て支援110番がまだ昼間だけ対応していた時に、夜間のことが心配になった相談スタッフが、「もし夜中に困ったことがあったら電話してきてください」と、相談者に自宅の電話番号まで教えていたことがありました。本来は会社がシステムで対応すべきことなのですが、スタッフ一人ひとりに「自分ができる限りのことをしたい」という強い思いがあったのだと思います。私はそういう社風であることを、とても誇りに思っています。
こういう姿勢やサービス内容をご評価いただき、一般企業以外にも数多くご利用いただいています。最高裁判所からは全国の裁判員の心のケアの電話相談をお任せいただいています。また、阪神淡路大震災を経験した神戸市をはじめとする自治体、東京大学をはじめとする全国の国公立・私立大学、全国の大学生協などにもご利用いただいています。
---ありがとうございました。創業当初からメンタルヘルスのサポートに取り組んでこられた御社ならではの「トータルEAPサービス」の特色がとてもよく理解できました。
企業データ
社名 | ダイヤル・サービス株式会社 |
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本社所在地 | 〒102-8018 東京都千代田区三番町6-2 三番町弥生館4階 |
事業内容 |
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設立 | 1969年5月1日 |
代表者名 | 代表取締役 今野 由梨 |