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3.メンタルヘルス対策

近年、職場におけるメンタルヘルス対策はより大きな課題となっている。メンタルヘルス、つまり「心の健康」は、決して外から見て判断できるものばかりではない。人間関係を含めた労働環境が原因となり、少しずつ深刻化していくケースも少なくない。企業内でメンタルへルスに問題が生じた社員に、どのような対策が必要なのかを考えていく。

メンタルヘルス対策における三つの予防策

職場におけるメンタルヘルス対策は、一次予防・二次予防・三次予防に分けられる。健全な職場環境を維持するには、それぞれの対策をバランスよく計画性を持って実施することが求められる。

●一次予防

まずメンタルヘルスの不調そのものを未然に防ぎ、健康維持・増進を図る。個人がストレスに対処すること、企業が働きやすい職場づくりに努めるなど、個人と企業が取り組む予防対策が含まれる。

一次予防のうち、ヘルス・プロモーション(積極的な健康の保持増進)では、心の健康に関する知識の習得、ストレスへの認識や対処法を学ぶ教育研修の実施、職場内外で相談できる環境の整備などがある。

ヘルス・プロテクション(仕事に起因する健康障害の防止)では、労働時間や仕事の方法、評価制度など、労働者の心に影響を与えるであろう事象についてチェックし、改善を図ることが中心になる。

中長期的に見た場合、まずは一次予防対策を徹底することが、深刻化する問題の予防に重要と捉えられている。2015年12月施行のストレスチェック制度は、一次予防を目的としている。

●二次予防

二次予防では、メンタルヘルスの不調が疑われる従業員を早期発見し、ハイリスクの労働者の早期治療・対処によって重症化を防ぐ。軽症の段階で管理監督者などが気づけば、適切な対応を選択でき、本人や家族などの負担軽減にもつながる。

企業内で早期に発見すれば、本人が対処できる場合もある。医師などが介入して、症状悪化を未然に防ぐこともできる。例えば、ストレスチェック後の医師による面談や指導が効果をもたらすケースもある。また企業側としては、必要に応じて配置転換も検討できる。

●三次予防

三次予防では、主に不調に陥った従業員に対する支援や、再発・再燃の防止、さらなる合併症の防止などが中心となる。ここには不調者が休職した後の職場復帰支援対応も含まれる。

具体的な企業の対応策としては、職場復帰支援プログラムの策定や、それに応じた就業規則・各種規程の見直しが挙げられる。休職中の従業員に対する精神面のフォローや復帰前後の出勤支援、再発予防までが一連の流れである。

当該従業員について、産業医による職場復帰の可否判断、適正配置を目的とした本人との面談も重要だ。真面目な社員ほど復帰に向けて焦りを感じることも多く、結果として早期復帰が早期再発につながる場合もある。定期的に面談を重ね、企業側が独自に判断するのではなく、医師の診断結果を踏まえて適切に判断する必要がある。

また、復帰可能と判断されて復帰しても、本人が無理をして再発・離職につながるケースは少なくない。復帰後にいきなり休職前と同等の仕事を任せるのではなく、短時間で対応できる仕事、納期にゆとりのある仕事から始めるのが得策である。

企業側が意識的に、職場内で復帰者を受け入れる体制を整えておくことが重要だ。

参考: Ⅴ 職場のメンタルヘルス対策 ~段階的予防の観点から~|平成23年度東京産業保健推進センター調査研究

メンタルヘルス対策関連の法律規程について

メンタルヘルス対策に関連する法律規程は数多くある。企業としても、大切な従業員を守るためには規程を十分に理解・遵守するべきだ。ここで、これまでの国内におけるメンタルヘルス対策関連の施策過程や主要な法律規程について解説する。

●国内におけるメンタルヘルス対策関連の施策経過

国がメンタルヘルス対策に踏み出すきっかけとなったのが、1984年2月に日本で初めて過労自殺(未遂)が労災認定された一件。これは業務上の精神的ストレスがもとで反応性うつ病(当時の診断名)を発症し、自殺(未遂)に至った従業員からの労災請求に対し、中央労働基準監督署長が認定したものである。これにより1985年、国はメンタルヘルス研修開催に向け動き出した。

その後、1988年の「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」の公示、1995〜1999年の作業関連疾患(ストレス)に関する調査・研究を経て、2000年以降はほぼ毎年、メンタルヘルス関連の施策を行っている。2018年8月には労働安全衛生規則が改正され、ストレスチェックの実施者に歯科医師・公認心理師が追加された。

なお労働災害防止計画(2018~2022年度)として、2018年3月に「第13次労働災害防止計画」が公示された。その中で、メンタルヘルス関連の施策の概要は以下の通りである。

  1. メンタルヘルス対策に関する施策の経過
  2. メンタルヘルス指針(労働者の心の健康の保持増進のための指針)
  3. ストレスチェック制度の施行を踏まえた当面のメンタルヘルス対策の推進について
  4. 産業保健総合支援センター
  5. 心とからだの健康づくり(THP)
  6. 衛生委員会
  7. 職場環境の改善
  8. 面接指導
  9. 健康診断
  10. 職場復帰支援
  11. 労災補償
  12. 支援組織

引用:こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト|施策概要・法令・指針・行政指導通達|厚生労働省

●メンタルヘルス対策に関連した法令・指針などについて

メンタルヘルス対策に関連した主な法令・指針・行政指導通達は、以下の通りである。

  • 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第69〜70条の2
  • 労働者の心の健康の保持増進のための指針
  • 事業場における労働者の健康保持増進のための指針
  • 労働契約法(平成19年法律第128号)第5条 ―安全配慮義務―
  • 労働基準法(昭和22年法律第49号)第75条
  • 労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)別表第1の2 ―災害補償―

引用:こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト|施策概要・法令・指針・行政指導通達|厚生労働省

上記「労働安全衛生法第70条の2」に基づき、厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」を定めている。ケアの実施方法としてセルフケア・ラインによるケア・産業保健スタッフなどによるケア・事業場外資源によるケアの「4つのケア」を推進している。

この他には、以下のような法令・指針などが関連している。

健康増進(健康経営)の効果があがっている(%)
2015年11月 「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(ストレスチェック指針)」改正
2015年11月 「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」改正
2017年3月 労働安全衛生規則改正(産業医制度の見直し)
2018年7月 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」公布(「労働安全衛生法」の改正を含む)
2018年8月 労働安全衛生規則改正(ストレスチェックの実施者に歯科医師・公認心理師を追加)
2018年9月 「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」公表

メンタルヘルスに支障をきたした社員へ企業がすべき対応(復職支援の5ステップ)

万が一、企業内でメンタルヘルス不調者が現れた場合は早急な対処が求められる。企業があらかじめ職場復帰支援プログラムを策定しておけばその後の判断がスムーズになる。

ストトレスチェックに関する取り組みでの課題(複数回答)

出典:改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き|厚生労働省

●第1ステップ

メンタルヘルスの不調が判明した後に病気休業を開始した後は、休業中のケアが必要になる。まずは休業に際して、従業員から医師の診断書(病気休業診断書)を管理監督者に提出してもらう。診断書には病気休養が必要であること、必要な療養期間の見込みを記載してもらうのが望ましい。

管理監督者は、診断書の提出を人事労務担当や事業場内産業保健スタッフなどに連絡する。当該従業員に対しては、休業中に必要な事務手続きや職場復帰支援について説明するとともに、安心して療養してもらえるよう、必要な情報提供なども行う。

情報提供の例として、傷病手当金などの保障、不安などの相談先の紹介、公的・民間の職場復帰支援サービスの情報、休業の最長保障期間などが挙げられる。従業員の支援に関して検討が必要な事項を社内であらかじめ確認しておき、必要時には従業員の同意の上で主治医に連絡を取ることも必要である。

●第2ステップ

休業中の従業員から職場復帰の意思が伝えられた場合、企業は職場復帰を直ちに判断するのではなく、主治医が職場復帰可能と判断したことを示す診断書を従業員から提出してもらう。

ここでの注意点は、主治医は日常生活における病状の回復具合だけで判断しているケースが少なくないことだ。主治医の判断と職場で必要となる業務遂行能力の内容も加味して、産業医などが精査して判断し、意見することが重要である。

診断書には、就業上で必要な配慮について主治医の具体的な意見を記入してもらうのが望ましい。あらかじめ主治医には、職場で必要となる業務遂行能力について情報提供し、回復レベルに達しているかを判断した上で診断書を作成してもらうとよい。

●第3ステップ

職場復帰が可能か判断し、職場復帰支援プランを作成する段階である。

スムーズな職場復帰を支援するには、復帰決定・手続きの前に情報収集が必要だ。従業員から職場復帰の意思を確認し、復帰支援プログラムを説明する。産業医は主治医から意見を聞き、さらに企業側は従業員の治療状況や回復状況、業務遂行能力や、従業員の復帰先などを確認する。家族からの情報提供、業務や職場の適合性確認なども必要だ。

各種情報を収集した上で、事業場内の産業保健スタッフなどが中心となり職場復帰の可否判断を実施する。可能と判断されたら、職場復帰支援プランを作成する流れとなる。

各種情報を収集した上で、事業場内の産業保健スタッフなどが中心となり職場復帰の可否判断を実施する。可能と判断されたら、職場復帰支援プランを作成する流れとなる。

プランは、段階に応じた内容、期間の設定も必要。ここで従業員には、計画的に職場復帰を進めることが、長期的に見た場合に安定した職場復帰につながると説明しておく。職場復帰プランに入れるべき項目は、職場復帰日、管理監督者による業務上の配慮、人事労務管理上の対応、産業医などが医学的見地から見た意見、フォローアップの内容などが挙げられる。

●第4ステップ

企業側が最終的な職場復帰を決定する。産業医がいる事業場である場合、職場復帰に関する意見や業務上の措置などをまとめた「職場復帰に関する意見書」を基に、内容を確認しながら関係者とともに手続きを進めていくとよい。

主な流れとしては、当該従業員の状態の最終確認(病状の再発などがないか、回復過程における症状の様子など)、就業上の措置などに関する意見書(職場復帰に関する意見書)の作成、企業側による最終的な職場復帰の決定である。

職場復帰は、意見書などで示された内容に基づいて管理監督者や人事労務管理スタッフの確認を得た上で企業が決定し、従業員に通知する際に就業上の措置の内容についても説明する。就業上の措置については、あくまで従業員の健康保持、円滑な職場復帰を目的とするものである。

●第5ステップ

実際に職場復帰した後は必要に応じてフォローアップする。管理監督者の観察や支援、事業場内の産業保健スタッフなどによるフォローアップ、職場復帰支援プランの評価や見直しも必要に応じて臨機応変に実施する。

フォローアップで面談するときに確認しておきたい内容は、症状の再発・再燃・新たな症状発生の有無、勤務状況や業務遂行能力についての評価、職場復帰支援プラン実施状況の確認、通院など治療状況の確認、職場復帰支援プランの評価と見直しなどが挙げられる。

従業員を守るメンタルヘルス対策は「企業の持続・安定」につながる

企業にとって従業員は、企業の存続に大きく影響する貴重な存在である。企業活動が今後も安定して発展していくためには、従業員一人ひとりの力が不可欠である。

メンタルヘルス対策は従業員のみならず、企業を守るために必須のものだ。各種法令を正しく理解し、ストレスチェックなど一次予防・二次予防、さらに三次予防、職場復帰支援プログラムを策定しておく必要がある。

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