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1.メンタルヘルスとは

メンタルヘルスとは?

イメージメンタルヘルスとは「心の健康」のことであり、特別な精神疾患を患う人の問題に限定されるものではない。心の病気にかかっていなければ健康であるとは、必ずしも言い切れないからだ。「心が健康である」とは、前向きな気持ちを安定的に保ち、意欲的な姿勢で環境(職場)に適応することができ、いきいきとした生活を送れる状態のことである。

リーマンショック以降、情報技術の発展や雇用形態の多様化により就業を取り巻く環境は大きく変化し続けている。複雑な人間関係や長時間労働などのストレスのほか、在宅勤務での孤独やインターネットを通じたコミュニケーションの形態によりメンタルヘルスに不調をきたす人が増えている。そのため企業には、多様なストレスを最小にできるよう、従業員が抱える問題に焦点を当て、解決支援に取り組むことが求められている。

メンタルヘルスを取り巻く流れ

1998年以降、日本では14年連続して年間の自殺者が3万人を超えていたが、2010年以降はゆるやかな減少が続き、「令和2年版過労死等防止対策白書」によれば2019年の自殺者は20,169人である。

同白書によれば、勤務問題を原因・動機の一つとする自殺者の数は、2012年以降は減少傾向にあり、2019年の勤務問題を原因とする自殺者の数は前年比で69人減少の1,949人だった。ただし、自殺者総数に対する勤務問題を原因とする自殺者の割合は増加傾向にある。

うつなどの心の病気が、「誰しもがなる可能性がある」と世間一般に認識されるようになる一方で、職務上の過重なストレスが軽減されているとはいい難い。厚生労働省のデータによれば、精神疾患による患者数(認知症などを含む)は年々増加しており、2017年には400万人を超えた。職場におけるメンタルヘルス対策を推進し、メンタルヘルスの不調につながるストレスを最小限に抑えることは、企業にとって依然として大きな課題となっている。

国と企業のメンタルヘルス対策

メンタルヘルス不調者が出ると、業務に支障が生じるだけではない。長時間労働などが原因で従業員が精神疾患に罹患し、会社の過失が認められると、損害賠償責任を問われることになる。リスク管理の点からも、非常に大きな問題といえるだろう。実際、精神障害の労災請求件数は上昇傾向にあり、2015年には約1,500件だった請求は、2019年には2,000件を超えている。

イメージ法令における規制も進んでいる。2011年に定められた「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、長時間労働を心理的負荷と捉え、うつ病発症の原因と考えるようになった。例えば、発症直前の1ヵ月間に160時間を超える時間外労働があったなど、極度の長時間労働が認められれば、労災と認定される可能性がある。

さらに2020年の法改正では、心理的負荷につながる出来事の類型に「パワーハラスメント」の項目が追加された。これにより、精神障害の労災認定につながる出来事は、(1)事故や災害の体験、(2)仕事の失敗、過度な責任の発生など、(3)仕事の量・質、(4)役割・地位の変化など、(5)対人関係、(6)セクシャルハラスメント、(7)パワーハラスメントの7類型になった。

国のメンタルヘルスへの取り組み

メンタルヘルスへの関心が高まる中、近年、厚生労働省ではメンタルヘルス関連対策をどのように進めているのか。主だったものを見ると、まず2000年に「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を発表している。この指針では、労働者自身による「セルフケア」、管理監督者による「ラインによるケア」、事業場内の健康管理担当者による「事業場内産業保健スタッフなどによるケア(内部EAP)」、そして事業場外の専門家による「事業場外資源によるケア(外部EAP)」という四つのメンタルヘルスケアの推進の重要性が示された。

しかし、自殺者が年間3万人を超える状況が続いたことなどから、2010年に「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」が発足。「職場におけるメンタルヘルス対策・職場復帰支援の充実」が掲げられ、「管理職に対する教育の促進」「職場のメンタルヘルス対策に関する情報提供の充実」「職場におけるメンタルヘルス不調者の把握および対応」などの施策の実践により、一人ひとりを大切にする職場づくりを推進すると表明した。

そして、「2018年度~2022年度第13次労働災害防止計画」では、2022年までに労働災害による死亡者数を15%以上減少、労働災害による死傷者数(休業4日以上)を5%以上減少させること(いずれも2017年比)を計画の全体目標に掲げた。

さらにメンタルヘルス関連の目標では、仕事上の不安、悩み、またはストレスについて職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合を90%以上、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上、ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上としている。

メンタルヘルスケア対策のためのストレスチェック制度

政府が2010年6月に閣議決定した新成長戦略では、2020年までの目標として「メンタルヘルスに関する措置を受けられる職場の割合100%」が掲げられている。これを受けて、2015年12月1日、メンタルヘルス対策の充実・強化などを目的として、ストレスチェックの実施を義務付ける「ストレスチェック制度」が施行された。

同制度では、従業員50人以上を有する事業場が、常時使用する労働者に対して、年に1回、ストレスチェックを実施することが義務となっている。ストレスチェックは、医師・保健師などが実施し、労働者のプライバシー保護の観点から労働者の同意がなければ、事業所に結果を提出することは禁止されている。企業は、高ストレスと評価された労働者から申し出があれば、医師による面接指導を設定しなければならない。

職場におけるメンタルヘルス対策の指針・全体像

こうした第13次労働災害防止計画を基盤とした職場におけるメンタルヘルス対策の指針は、労働安全衛生法に基づき厚生労働大臣が公表した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の最新版(2015年改正)から見ることができる。

指針では、メンタルヘルスケアの基本的考え方として、三つの予防に重きを置いている。メンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期に発見し適切な措置を行う「二次予防」、およびメンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰支援などを行う「三次予防」の円滑な実施である。これらの取り組みでは、教育研修・情報提供の実施と共に、「セルフケア」「ラインによるケア」「産業保健スタッフによるケア」「外部機関によるケア」の四つのケアの効果的な推進を重視している。

また、メンタルヘルスケアの推進にあたっては、企業は「心の健康問題の特性」「労働者の個人情報の保護への配慮」「人事労務管理との関係」「家庭・個人生活などの職場以外の問題」に配慮しなければならない。

企業には、中長期的視点に立った「心の健康づくり計画」を策定しそれに沿ってメンタルヘルスケアを推進することが求められる。「心の健康づくり計画」とは、労働者の意見を聞き職場の実態に即して立てられた計画・取り組みのことである。さらに、メンタルヘルスケア対策の具体的な実施体制や実施方法は、衛生委員会における調査審議で十分に話し合われる必要がある。

これらを組み合わせ、企業は「メンタルヘルスケアの教育研修・情報提供」「職場環境などの把握と改善」「メンタルヘルス不調への気づきと対応」「職場復帰における支援」という具体的な取り組みを、前述の四つのケアの視点から横断的に行うことが重要である。

そして、指針では企業に対して心の健康に関する情報を理由とした、以下の不利益な取り扱いを防止していることも留意したい。

【心の健康に関する情報を理由とした不利益な取扱いの防止】
  • 解雇すること
  • 期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと
  • 退職勧奨を行うこと
  • 不当な動機・目的と判断されるような配置転換や職位の変更を行うこと
  • その他労働契約などの労働関係法令に違反する措置を講じること

企業のメンタルヘルスへの取り組み

「令和2年版過労死等防止対策白書」では、仕事や職業生活に関することで強い不安やストレスを感じている人の割合は58%に上る。理由を見ると、「仕事の質 ・ 量」(59.4%)が最も多く、次いで、「仕事の失敗、責任の発生等」(34.0%)、「対人関係(セクハラ ・ パワハラを含む。)」(31.3%)となっている。

職場におけるメンタルヘルス対策に取り組む事業所の割合は59.2%で、 事業所規模別にみると、100 人以上の全ての規模で 9割を超えている。また、50人以上の全ての規模で8割以上となっている。

メンタルヘルス対策の主な内容としては、「労働者のストレスの状況などについて調査票を用いて調査(ストレスチェック)」(62.9%)が最も高い。次いで「メンタルヘルス対策に関する労働者への教育研修・情報提供」(56.3%)、「メンタルヘルス対策に関する事業所内での相談体制の整備」(42.5%)、「健康診断後の保健指導におけるメンタルヘルス対策の実施」(36.3%)の順となっている。

このように、メンタルヘルス対策に取り組む企業の割合は増えつつある。しかし、国の目標では、2022年までにメンタルヘルス対策に取り組む事業所の割合を80%以上にすると定めており、労働者の心の健康に最適な職場環境の整備には、まだまだ取り組みが進むといえる。

職場の上司・管理者によるケア

「令和2年版過労死等防止対策白書」では、ストレスを相談できると答えた人のうち、労働者が挙げた相談相手で最も多いのが「家族・友人」(79.6%)、次いで「上司・同僚」(77.5%)である。

職場のメンタルヘルスでは、相談を受けた側である上司や管理者がどのように対応するかが、労働者のメンタルヘルスの不調に対して早期に対応できるかの分かれ目となる。

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では、管理者ができる取り組みとして「いつもと違う部下の様子にいち早く気づく」ことが挙げられている。ここでいう「いつもと違う」とは、遅刻・早退・欠勤の増加、無断欠勤、残業や休日出勤の不釣り合いな増加、仕事の能率の低下、活気の低下(あるいはその逆)、などが挙げられている。このような部下の様子に気づいた管理者は、病気でないことを確認したり、部下の話を聞いたりするなど何らかの対応をとらなければいけない。状態によっては、産業医との面談を設定することも重要であり、ときには管理者自身が産業医にメンタルヘルスについて相談できる仕組みが職場にあることが望ましい。

さらに、メンタルヘルスに不調をきたしている労働者との面談では積極的傾聴の姿勢が求められる。本人の希望に応じて休職などの選択肢を案内したり、状況次第でセクハラ・パワハラなどの調査・対応を行ったりする必要がある。こうした適切な対応を行うためのメンタルヘルスの知識を研修で管理者が身に付けることは、働きやすい職場環境づくりにつながる。

在宅勤務・テレワークの労働者のメンタルヘルス

柔軟な働き方として、勤務時間や勤務場所の制約が少なくなる在宅勤務・テレワークは増加傾向にある。2019年の導入企業の割合は20.2%であり、さらに2020年は新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを導入する企業が急速に増加した。

テレワークによる在宅勤務の拡大は、育児や介護といった家庭と仕事の両立を抱える人、持病などで通勤が難しい人、地方・海外在住者などさまざまな立場の人たちに就業の機会を広げるものである。一方で、「自宅にて」「一人で」勤務する形態であるが故に、オフィス勤務とは異なるメンタルヘルス対策に気を配る必要がある。

まず厚生労働省のガイドラインでは、テレワークを実施する際の作業環境整備を推奨している。照明や騒音、作業する椅子や机といったハード面が、仕事の能率に大きく関わるからである。加えて、テレワークでは雑談・相談がしにくいといった「孤独」や、コミュニケーションがすべてオンラインになるが故の「仕事のやりにくさ」があるといった声が上がっており、ソフト面での対策も重要になる。

メールやチャットといった文章だけのコミュニケーションではなく、ビデオツールといった声や画面を介して互いの様子が確認できる方法を取り入れること。特に、部下やチームメートが「わざわざ」相談を持ち掛けなくても、気になっていたことを話せる「場」作りが重要である。そのためには、朝晩5分などというように時間を決めて、オンラインで顔を合わせられる場所を作ることが有効である。

また在宅であっても始業時刻と終業時刻の区切りを明確にするために、上司への報告を行うなど、従業員・管理者ともにテレワークに即した勤怠管理の方法を取り入れることが望ましい。

在宅勤務は今後も導入する企業が増えていくだろう。仕事のモチベーションを損なわないために、顔を合わせるオフィスとは異なる、テレワークならではの評価制度の構築や、チーム間での情報共有方法など、環境整備を進めることが労働者のメンタルヘルス対策になるだろう。

誰もがなり得る心の病気の予防に取り組む時代に

企業はメンタルヘルス対策として、何よりもまず顕在化している不調者のケアを優先すべきといえるが、メンタルヘルス不調になることを未然に防ぐことも大事である。

この予防的なケアは時間がかかる上に成果がすぐに目に見えるものではないため、これまでは不調者に対するケアに留まる企業が多かった。しかし近年、不調者の対応に一段落ついた企業を中心として、社内広報誌やウェブページなどを利用しメンタルヘルスの基本的な知識を提供したり、管理監督者に対してリスクマネジメントの研修を行ったりするなどの教育活動を行うケースが増えている。また、ワーク・ライフ・バランスの概念を普及させ、休日や有給休暇の取得を促したり、個人の働き方の多様性を認めたりしていこうとする動きも活発化してきた。

最近では、ストレス耐性を高めるのではなく、ストレスが強い状況下でも心が折れず状況に合わせて柔軟に対応できるレジリエンスの考えも注目されている。

本来メンタルヘルス対策の根幹は「不調者を出さないようにする」ことである。そのためにも顕在化している不調者のケアに留まらず、「誰もがなり得るもの」として、個人がストレスとの付き合い方を学ぶこと、不調の波を受け入れ休息することといった働き方そのものの見直しから、誰もが生き生きと働ける職場環境づくりがより重要になっていくだろう。

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企画・編集:『日本の人事部』編集部

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