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専門家コラム

<判例から考える>問題行動がみられる社員への対応ポイント

2024-02-28 テーマ: 人事支援

人事として、問題行動が見られる社員への対応に頭を悩ませることも多いのではないでしょうか。特に背景にメンタルヘルスの問題がある場合には、なおさらです。

今回はこのようなケースに対応するポイントを判例から考えてみたいと思います。

 

【ケースA】

Xは、Y社で主に販売員として勤務していたが、2年前より問題行動(具体的には、無断での早退や職場離脱、トイレに行くと言い食堂で寝る、上司に侮辱的なメールを送る、インカムを用いての不適切な発言等)を取るようになり、Y社が注意、指導を重ねていた。

Y社は産業医との面談を実施し、専門医の受診を促したところ、適応障害・心身症・反応性うつ病等の診断がなされた。しかし、Xはその後の継続的な通院はしなかった。

Y社は問題行動により、けん責(昨年8月)、出勤停止7日間(昨年10月)、降格(本年3月)と懲戒処分を行ったが、改善がないとして、本年4月に解雇した。

Xは、Y社が配置転換や休職命令の措置を行わなかったことを指摘し、本件解雇は無効として提訴した。

 

【ケースB】

XはY大学Z学部にて準教授として勤務。入職に先立ち、Xは「アスペルガー症候群」の診断を受けていたが、病気の事は大学側に告知しなかった。

4年前の1月、Xは自ら学部長にアスペルガー症候群である事実を告知し、学部長から学長にもその旨が伝えられた。

3年前の10月、Xは大学構内において生協職員に対して罵声を浴びせ、土下座させるなどの行為におよんだ。その後、生協の理事長より学長に対してXの上記言動について報告、申し入れがなされた。

また2年前の6月には、Xが大学構内において男子学生を指導しようとしたところ、男子学生から暴力を振るわれたとして、Xは警察に通報。さらにその後、男子学生を告訴した。

そして同年10月、XはY大学関連病院の救急外来を受診した際、自ら所持していた果物ナイフで手首を切り、駆け付けた警察官に銃刀法違反で逮捕された。

本年3月、Y大学は上記事実等を理由に、大学職員としての適格性を欠くとしてXを解雇した。

Xは、解雇は無効であるとして、Y大学に対し地位確認等を求めて提訴した。

 

ケースA、Bともに職員の問題行動を理由に解雇した結果、当該職員から解雇無効の訴えを起こされたケースです。

どちらのケースも職員側にメンタルヘルス疾患の既往があり、かつ、問題行動が明白であるよく似たケースと言えます。

しかし裁判の結果は、ケースAが「本件解雇は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められ、有効である」とされたのに対し、ケースBでは「本件解雇は、就業規則所定の解雇事由に該当する事由があるとは認められないから、客観的に合理的な理由を欠くものであって、無効である」とまったく逆の判決となっています。

なぜこのような違いが生まれたのでしょうか。

細かいポイントはたくさんありますが、本メルマガでは実務対応上、重要と思われるポイントに絞って記載してみたいと思います(判例詳細はメール下部に記載のケース名から各自検索ください)

二つのケースの最も大きな違いは、雇用側が従業員側に対して「指導や指摘を適切に行っていたかどうか」と言えます。

ケースAでは、会社側が何度も指導や指摘を行ったにも関わらず、従業員側は指導を受けたあとも不適切な言動を繰り返していたことにより、「改善の見込みが低い」と判断されています。

一方のケースBでは、一般的に不適切とされる行為は多く認められるものの、学校側から従業員側に対して具体的な指導や指摘を行っていた事実は認めらません。これに対し裁判所は「大学側からXに対する指導や指摘がなかったために、Xがこれを改善する可能性がなかったとまでは認められない」としています。

特にケースBでは、アスペルガー症候群(注:発達障害のひとつ。現在の「自閉スペクトラム症」)の障害特性として「(障害の)特徴として、組織という文脈での状況理解の困難さ」がある以上、大学側は「大学教員として問題である、あるいは少なくとも大学側は問題であると考えている」という指導や指摘を行うべきであったと指摘されています。

このようにメンタルヘルス疾患が背景にある問題行動であったとしても、雇用側の指導や指摘を充分に行ったかどうかは過去の判例からも大変重要なポイントとなっていると言えるでしょう。また、充分であると判断される指導や指摘の「内容」や「程度」が従業員側のメンタルヘルス疾患の診断名や重症度によって異なることも示されています。

実際にこのような事例が発生した場合には、法的に必要な対応について弁護士に相談する必要があります。

また、メンタルヘルス疾患の診断名や重症度といったことも人事側だけで判断することは非常に困難です。そのため、適切な対応のためにはメンタルヘルスの専門家(主治医/産業医/心理士等)との連携が不可欠となります。

特に問題行動が見られるケースでは、(今回の裁判ケースのように)長期的な視点での対応が必要となるため、初期対応の段階から専門家と連携できることが重要といえるでしょう。

参考:

【ケースA】ビックカメラ事件(東京地裁 令元年8月1日判決)

【ケースB】O公立大学法人事件(京都地裁平成28年3月29日判決)

 

(エグゼクティブコラボレーター  島倉 大 )

キューブ・インテグレーション株式会社 シニアコラボレータ―
産業カウンセラー、キャリアコンサルタント、二級FP技能士 【専門領域】産業精神保健、認知行動療法、ストレスマネジメント
臨床心理専攻。専門学校で学生の心理及びキャリア相談を担当。EAP事業会社にて、カウンセリング部長として企業のメンタルヘルス全般をサポート。約2000件の従業員への臨床に携わる。外資系会社から商社、組合・公務員団体等多岐にわたる研修を実施。

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