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専門家コラム

精神障がい者の入社後に起こりやすい雇用トラブルの予防策

2024-01-26 テーマ: 障害者雇用

精神障がい者の入社後に起こりやすい雇用トラブルの予防策:採用選考時のミスマッチ軽減の必要性
 

 

「今後の成長を期待し、業務上のミス・改善点のフィードバックを行っていたつもりが、“障がい者への配慮が全くされていない”と、本人からハラスメントの訴えが挙がった」「想定していた業務がこなせず業務バランスが取れないため、周囲からの不満の声が大きくなってしまった」等、組織/職場にとって想定外の雇用トラブルに発展し、職場対応の負担も発生しています。

 

実際には、いくつかの要因が重なり合ってトラブルの発生/悪化に至るため、障がい種別に関わらず起こる可能性はありますが、特に、精神障がい者の場合は、個々で障がい/疾患の特徴が異なり、その時折で状態も変化するため、より細やかな職場対応が求められます。
現実的には、職場対応のみでトラブルを防ぎ切ることは難しく、効果の見込めそうな対策の選択肢を増やして二重三重に網を張り、未然予防/悪化防止を目指していく必要があります。

 

トラブルに至るケースを振り返ると、採用時から企業側と障がい者側に認識のズレが生じているケースも多く見られていることから、採用後に双方が不幸にならないためにも、選考段階からミスマッチを減らしていくことが重要です。

特に、精神障がい者の場合には、状況や時間/時期によっても状態が変化するため、後にギャップが生じやすい項目である
(1) 志向性・価値観(仕事における自己実現・仕事の進め方・職業生活の希望など)
(2) 能力・スキル(業務遂行・対人関係・自己認識・ストレスコーピングなど)
(3) 障がいの配慮事項(支障の要因となり得る状況・配慮希望・支援リソースなど)
などは、選考活動において、障がい者本人への情報伝達・情報収集の工夫ができると、ミスマッチの軽減につながります。

 

選考活動を進めるにあたっては、職場/受入れ部門と人事部門で、(1)の志向性・価値観にあたる人材に対する考え方の認識のすり合わせ(どのような障がい者を採用したいのか、どのような障がい者であれば受入れ可能なのか等)がある程度できていることが前提ですが、入社直後の業務内容の想定だけでなく、中長期に渡る雇用方針を伝えながら、本人が先々まで働くイメージが持てるようにしていけると良いでしょう。
例えば、発達障害のケースでは障がい特性の自己理解を経て、「自分の不得手な部分をばかりに注目してストレスを感じるよりも、強みを活かして自分らしさを活かせる仕事がしたい」、うつ症状が落ち着いてきたケースでは「障がい者雇用とはいえ、仕事を通じて自分を成長させたいし、できれば正社員にステップアップしたい」という価値観を持っている方もいます。雇用方針と概ね一致しているのかどうか、採用時点で明確に伝わっていない場合、後々トラブルにも発展しやすいため注意が必要です。

 

次に、(2)の能力・スキル、(3)の障がいの配慮事項について、オープン就労のため障がい者側は面接時に健康状態や病歴等の込み入った話をする心づもりができているケースは多いですが、センシティブな情報の取り扱いに留意しつつ、本人と認識のすり合わせを行う必要があります。
例えば、一般社員と同等の業務を任せられそうなキャリア採用の候補者である場合でも、双極性障害の症状が顕著になると一部の機能が低下し、「日々の集中力にムラが出る」「急に報連相ができなくなる」等も推測できます。毎日の疲れ具合をモニタリングして急激な悪化を防いだり、本人の体調変化によって業務量を一時的に調整したりすることが可能であれば、受入れ後のトラブル発生を回避できるだけでなく、本来の力を発揮してもらうことも可能です。

 

面接時の本人申告による情報のみでは限界もあるため、不明瞭な情報により懸念点がある場合には、採用選考の対策だけでなく、配置(新たな課題の発生に備えて対応力の高い職場への配置)、職場サポート(専門職による本人および職場への定期的な支援)などの対策も検討し、トラブル軽減を目指していけると良いでしょう。

                                                                                              


(シニアコラボレーター 諏訪 裕子)

キューブ・インテグレーション株式会社 シニアコラボレータ―
臨床心理士、公認心理師、シニア産業カウンセラー 【専門領域】障がい者雇用の企業支援、精神障がい者の採用・定着・育成支援
精神科・心療内科クリニックにて、医師との協働で会社員のメンタルヘルス相談等に関与。EAP事業会社にて企業のメンタルヘルス支援に従事。現在は、企業の人事部門に対する障がい者雇用のコンサルテーション、精神障がい者の現場管理職・本人支援を実施。

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