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ビタミンモデル
[ビタミンモデル]

「ビタミンモデル」とは、英国の心理学者ピーター・ウォール氏が1987年に唱えた労働ストレス理論。職場における九つの環境特性が、労働者のメンタルヘルスと深く関わりがあることを説いています。名称の由来は、九つの環境特性を栄養の「ビタミン」になぞらえて説明されていること。ビタミンは、欠乏すると身体に悪影響を及ぼしたり、必要レベルを超過すると健康増進に寄与しなくなったりします。環境特性も、欠乏したり過剰になったりすることで、メンタルヘルスに影響を及ぼすことを示唆しています。

ビタミンモデルのケーススタディ

従業員のメンタルヘルスケアのために
人事がチェックすべき九つの職場環境

従業員のメンタルヘルスケアは、人事担当者が対応すべき事項の一つです。一方で、よりよい労働環境をつくるために何をどう改善すればよいのか、明確な答えを導きづらい領域でもあります。ウォールのビタミンモデルは、メンタルヘルス施策を検討するときに参考になる枠組み。ウォールが掲げる、メンタルヘルスに作用する九つの環境特性は次のとおりです。

  • コントロールの機会
  • 技能使用の機会
  • 明確な目標
  • 職務の多様性
  • 明確な評価
  • 金銭の入手可能性
  • 身体的安全
  • 対人接触の機会
  • 高い社会的地位

職務において裁量が高く、保有するスキルが発揮できたり、新たなスキルを習得する機会があったりするほど、メンタルヘルスは向上します。また、明確な目標・役割があり、その達成に集中できることや、活動に対する明確な評価を得られ、結果の把握・予測・リスク回避ができることも、メンタルヘルスにプラスの影響があります。また、働く場所や職務が多様であること、経済的に困窮していないこと、身体的に安全であることも重要です。さらに、協働できる環境にあることや、社会的地位があることで、自尊心を高く維持できメンタルヘルスが向上します。

ウォールが見いだした、環境特性とビタミンとの関連性について、心理学者の羽岡邦男氏は次のようにまとめています。

  1. 環境特性の欠如によって精神の健康は低下する。その一方で、必要(適正)レベルを超過すると、環境特性の増加は精神の健康増進には寄与しなくなる。
  2. いくつかの環境特性は必要(適正)レベルを超過すると精神の健康に何らかの悪影響を与える(ビタミンA、Dに該当)が、それ以外の環境特性は必要(適正)レベルを超過しても一定の効果を保つ(ビタミンC、Eに該当)。

すべてのビタミンは欠乏すると悪影響を及ぼします。ただし、過剰になると二種類の影響があります。適正レベルを超過すると悪影響を与えるものと、超過しても一定の効果が持続するものです。環境特性にもビタミンA、Dのように「過剰になると悪影響」のものがあります。コントロールの機会、技能使用の機会、明確な目標、職務の多様性、環境の明確性、対人接触の機会がそれに当たります。裁量は大きすぎてもストレスになり、職務は多様すぎてもストレスになるということです。一方、ビタミンC、Eに当たる「過剰でも一定の効果を保つ」環境特性は、金銭の入手可能性、身体的安全、高い社会的地位。これらは、多すぎて精神に悪影響を及ぼす性質のものではないと考えられています。

会社制度やカルチャー形成施策でも、良かれと思って設定したことがかえって従業員の重荷になることがあります。従業員のメンタルヘルスに課題を抱える企業の担当者は、九つの環境特性が適正レベルにあるかどうかを見直すことが必要です。

出典:Warr, P. Work, Unemployment and Mental Health, 1987

参考:労働ストレス研究(1)-職場ストレスモデルに関する一考察-|政治学研究論集

企画・編集:『日本の人事部』編集部

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